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慶應義塾OCW >>コース一覧 >> 法学部 >> 政治学基礎 I(2004春学期)
政治学基礎 I(2004春学期)
【テーマ06:国家】
        「ある人は、他の人々が彼にたいし臣民たる態度をとるがゆえにのみ王である。ところが彼らは、彼が王であるがゆえに自分たちは臣民であると信ずる。」
        カール・マルクス『資本論』第一巻第一篇第一章

■ポリス、キヴィタス、レス・プブリカ
    ポリス:×都市 ×国家(地理的・空間的観念)
    「市民」が私的なものを省みずに集い、法が支配する公的空間に積極的に参加する人的で倫理的な結合体。
    権力装置や統治機構という枠組みを表すstateの意味での国家の観念が登場するのは近代以降。

■近代国家=nation state
    近代以前に多元的・重層的であった政治社会を一元的・統一的にまとめあげる絶対君主の権力とその支配機構としてのstate
    (官僚制、常備軍、単一の国民経済)
    転換点としての「人民主権」観念の成立
    stateを外枠とし、その内容を人的共同体という古典古代の概念の近代版として見出されたnation概念で満たす必要性
■さまざまな「国家の本質」
    ・ホッブズ:人間がバラバラに生きていたのでは実現できない「安全」という利益のために人々が結託して契約により設立。
    ・ヘーゲル:「家族」と「市民社会」を止揚した倫理的理念の具体的表現形態。
    ・マルクス主義:原始共同体が崩壊し階級社会が成立する時に生じた、一階級による他の階級支配のための道具。階級敵を抑圧するための暴力装置。
    社会科学における「本質主義」の罠:
      「国家とは盗賊である」という色めがねで対象世界を眺めれば、まさにそういう特徴ばかりが見えてくるだろうが、それは現実の国家が盗賊であることの証明にはならない。
■非本質主義的な「国家」の定義
    マックス・ウェーバー
      かつて国家が取り上げてこなかった問題などありえない。/
      国家だけの専売特許だった問題はない。
      --> 目的から国家を定義することを否定し、国家にのみ特有の手段に着目
      国家:「ある一定の領域内部で、正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体」

■国家三要素説?
    国家を構成する要素としての領土、人民、主権?
    領土、人民は国家概念の外延にすぎない。あくまで内包は主権

    国家の暫定的定義(萩原)
    国家とは主権的なAnstalt的団体であり、それは法=道徳共同体の形を要する。

■国籍離脱権?
    日本国憲法第22条第2項:「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。」・・・本当か?

■主権:「正当な(legitim)物理的暴力行使の独占」
    「権力なきところで権力を作り出す権力(暴力)」としての「憲法制定権力(暴力)」(verfassungsgebende Gewalt; pouvoir constituant)
    その非「合法性」、不正義性(違憲性)
    不当な物理的暴力の行使の必要性とその正当化
       --> 正統化 --> 主権
    *主権は国家にしかない。

■主権・正統性・暴力
    Weberの言う「正統legitim」な「物理的強制力 physische Gewaltsamkeit」
    主権=憲法制定権力
      その「正義」と「暴力」
    「主権とは《例外状況》において現行法を廃棄する権限である。」(C. Schmitt)
    →戒厳令、緊急勅令(非常大権)

■憲法制定暴力
    合法性(legality)と正統性(legitimacy)
    「Rex(王)がLex(法)をつくる」から近代法治主義へ。しかしそこに究極的に存在する
    「Rex(王)がLex(法)をつくる」
    はじまりの暴力 参照:J.デリダ『法の力』、梅木達郎『脱構築と公共性』
    法創出:「行為遂行的暴力」、「力の一撃」
    例:「アメリカ独立宣言」
    1.先住民の締め出し
    2.遂行的発話:宣言によって無から有をつくり出す
    3.自己根拠付け:その根拠となる権威は上でも外でもなく、自己自身
    4.その隠蔽
    始まりの暴力があらわになるとき:治安維持法・破防法 これが悪法を免れるためには「立憲主義」、「人権尊重」の確立が前提

■近代主権国家
    1.暴力装置
    2.国民の平等 --> 外的・内的「国境」 --> 「異質者」の排除・絶滅

    「人権のアポリア」(H.アレント)
    人権を蹂躙するのも国家だが、その国家の権力なくしては人権は擁護されない。
    -->国家における正義の契機(と暴力の契機)

■「道徳共同体」:国家という共同幻想
    近代国民国家(nation-state)のジレンマ
    絶対君主という一人の人間に集中させられている限りは、まだ成り立ちえた「最高にして絶対、唯一、不可分であり譲渡されえない」という「主権」の属性を、「人民」という不特定多数の人間集団に帰属させようとしても、そのままの状態では維持不可能。
      ==> 多様な人間を一つのnationに束ね上げる神話的イデオロギー

    nationという神話

    ・人間の作為の産物(<==> 自然的ethonos)
    ・人間の差異性を同質性に仮構

    nation stateの神話

    1.少数者の利益・意見の「公益」、「世論」化    (政治社会システム)
    2.市場メカニズム(見えざる手)による不平等の是正 (経済システム)
    3.「国民の意志」の表出装置としての「民主的」選挙 (政治過程システム)
    4.大衆社会・消費社会の同質性神話         (生活世界)
    5.「一民族、一言語、一国家」という二〇世紀の神話 (国際政治システム)

■神話は露呈する:nation(ethonos)≠stateの実態



 

★参考テキスト
萩原能久「ラビリンスワールドの政治学」、日本評論社『法学セミナー』(全12回連載より「国家が国家であるのは、それが国家だからである」)
萩原能久「法と政治」(『別冊法学セミナー 法学入門2000 法律学って、何やるの?』所収)、日本評論社
K.マルクス『資本論』(『世界の大思想14 マルクス』)、河出書房新社
Th.ホッブズ『リヴァイアサン』(中公バックス『世界の名著 ホッブズ』)、中央公論社
G.W.F.ヘーゲル『法の哲学』中公バックス『世界の名著 ヘーゲル』
F.エンゲルス『家族・私有財産および国家の起源』、岩波文庫
N.レーニン『国家と革命』、岩波文庫
M.ウェーバー『職業としての政治』、岩波文庫
J.デリダ『法の力』、法政大学出版
梅木達郎『脱構築と公共性』、松籟社
尾高朝雄『法の窮極に在るもの』、有斐閣
ダントレーヴ『国家とは何か』、みすず書房
樋口陽一『自由と国家』、岩波新書
福田歓一『国家・民族・権力』、岩波書店
J.ストレイヤー『近代国家の起源』、岩波新書
F.クルマス『言語と国家』、岩波書店
岩井克人『貨幣論』、あるいは『ヴェニスの商人の資本論』、ちくま学芸文庫


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