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政治学基礎 I(2004春学期)
【テーマ07:民主主義】
    前回補説:神話は露呈する: ユーゴスラビア、冷戦後の世界におけるnation≠stateの実態
    「われわれユーゴスラヴィアは七つの隣国、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字を持つが祖国は一つである。」
五つの民族?
民族 人口[%]
セルビア人   36.3
クロアチア人 19.8
ムスリム人 8.9
スロヴェニア人 7.8
アルバニア人 7.7
マケドニア人 6.0
ユーゴスラヴィア人 5.4
モンテネグロ人 2.6
ハンガリー人 1.9
ロマ人 0.8


民族・言語・共和国の不一致
旧六共和国の民族・言語・宗教
スロヴェニア スロヴェニア人(90.5%) スロヴェニア語 カトリック ラテン文字
クロアチア クロアチア人(78.0%) クロアチア語 カトリック ラテン文字
ボスニア・
ヘルツェゴヴィナ
クロアチア人(17.3%)
セルビア人(31.3%)
ムスリム人(43.7%)
クロアチア語
セルビア語
カトリック
ギリシア正教
イスラム教
ラテン文字
キリル文字
セルビア
(ボイボディナ自治州)
(コソヴォ自治州)
セルビア人(69.8%)
(ハンガリー人(3.5%))
(アルバニア人(17.3%))
セルビア語
(ハンガリー語)
(アルバニア語)
ギリシア正教
カトリック
イスラム教
キリル文字
モンテネグロ モンテネグロ人(61.8%) セルビア語 ギリシア正教 キリル文字
マケドニア マケドニア人(64.6%) マケドニア語 ギリシア正教 キリル文字


■露呈したnation神話の取り繕い
    1.第3世界におけるnation-building = state-building
    (1)独立時に旧宗主国との対決姿勢から政治的統一性を保つも、独立後内部におけるエスニシティ問題が深刻化する。
      マレーシア:マレー系、インド系、中国系
    (2)対外的危機感の煽り立て
      スカルノのネオ・コロニアリズム→国際的孤立政策
    (3)先進国に追いつくための国家主義=開発独裁
    2.先進諸国:夜警国家か福祉国家か
      イデオロギーとしての「公共性」
      warefare-stateからwelfare-stateへ
      (国家による「慈善的」発想から「国民としての必要最低限(national minimum)」の保障へ)
      日本:国家責任の回避と過剰な国家介入

■民主主義という語のイメージ
    19世紀以前:衆愚政に転化する危険性をはらんだ政体というイメージ
      参照:トクヴィル『アメリカの民主政治』
    第二次大戦後、ほぼすべての政治体制がそれを自称するプラスイメージに転化
    「民主集中制」、「指導者民主主義Fuehrerdemokratie」なる概念
        民主主義理論は、現代国民国家体系の道徳的エスペラント、諸国民を間違いなく連合する言語、現代世界の公的標語である。だがそれは実にいかがわしい通貨でもある。文字どおりの間抜けでもなければ、それを額面どおり、言葉どおりに受けとる者はいないであろう。
        ジョン・ダン『政治思想の未来』

■近代デモクラシー
    その起源(根)?
    その幹
    = 近代に成立した自由で平等な個人という観念、「人権思想」を基礎として繰り広げられた政治的「抵抗」の思想と運動
      アメリカ独立宣言(1776)
      「すべての人間は平等につくられ、他人に譲り渡すことのできない一定の権利が与えられている‥‥これらの権利を確保するために政府がつくられ、その正当な諸権力は、被治者の同意に基づく‥‥」。
      フランス人権宣言(1789)
      「人間は自由かつ権利において平等なものとして生まれ、また存在する。‥‥あらゆる国家の目的は、人間の自然で時効により消滅することのない権利の保全である。それらの権利とは、自由、所有権、安全および圧制への抵抗である。‥‥あらゆる主権の原理は、本質的に国民のうちに存する‥‥」。

■アメリカ型デモクラシーとフランス型デモクラシー
    ・アメリカ型対フランス型:
    「自由主義的デモクラシー」対「非自由主義的デモクラシー」(C.B.マックファーソン)
    「トクヴィル=アメリカ型国家像」対「ルソー=ジャコバン型国家像」(樋口陽一)

    アメリカ型デモクラシー:「国家からの自由」
    無からの国家創立という実験と独立戦争の苦い体験‥‥国家権力への警戒心、猜疑心
    個々の人民の自由を侵害しないよう、国家権力の分立と相互の抑制・均衡
    国家と個人の間に、自発的結社や複数の集団からなる緩衝地帯(後の政党)の整備。
    権力の集中より権力の分散と競合
      参照:ジェイ、マディソン、ハミルトン『ザ・フェデラリスト』
    ・フランス型デモクラシー:「国家への自由」
    人民への権力集中と、中間団体(政党、代議制)を排除した「人民の支配」の実体化
    国王主権から人民主権へ(支配装置としての領域国家に手をつけない主権者の入れ替え)
      参照ジャン=ジャック・ルソー『社会契約論』
        ルソーの政治思想
        一般意志が要求する共同体の法への服従は強制ではなく「自由」:(臣民であると同時に支配者でもある人間)
        代議制の否定的評価
        「抵抗権」の否認と「祖国のために死ぬ義務」


■ひとつの凶暴化:全体主義的デモクラシー

    フランス型の支配者と被支配者の一致、「統治なき統治」の主張
      ・「人民主権」
      ・マルクス主義の「プロレタリアート独裁」
    しかし支配者と被支配者の一致という理想は、被支配者を支配者の地位にまで引き上げて一致させるのではなく、いわば奴隷に対して、主人を名乗ることを許すにとどまった。
    「独裁」体制とは、人民がそのようなフィクションに我慢できなくなった間隙を縫って成立する。ファシズムにしろ、あるいは社会主義における一党独裁にしろ、それはまぎれもなくデモクラシーが産み落とした、デモクラシーの進化形態である。ヒトラーにせよ、スターリンにせよ、大衆の支持によって支えられていた。

■もう一つの凶暴化:偽装されたデモクラシー
    近代国家の全体化メカニズム
      ・「人民主権」とは、異質な人間が、それでも一つの意志に結実できることを(フィクションとして)想定するかぎり、同質性原理を必要とする。
      ・「われわれ」の範囲や資格を語ることは同時に誰が「われわれ」ではないのかという排除を語ることでもある。そして排除されている者のリストは、「公益」や「国益」の美名に覆い隠され「排除している者」の目には写らない。

    どこにも存在しない人民という集合体を擬人化して、それに一つの明確な意志を付与し、それをさらに「国益」と読み変える権限を持つのは誰か。それはわれわれの権利を保護してくれる番人の特権なのか。だとすればその番人の番は誰がすればよいか。
    近代国家のイデオロギー装置
      国家が国家であるかぎりは、絶対主義国家が近代国家に転換しても、それが有無を言わせぬ強制力の主体であるという側面は変わらない。それを覆い隠し、「力による支配」を「意味による支配」に置き換えるのが近代国家のイデオロギー装置である。
    民主主義の価値
      コンセンサスや、説得、多数決に民主主義の価値があるのではない。デモクラシーに何らかの価値があるとするならば、それは「議論をする」ということ、その議論によって、お互いの間にある差異、見解の相違を確認しあうことにある。
      民主主義的「決定」は真理でも正義でもない。むしろ、その「決定」によって、犠牲を強いられた人々、多数決に踏みにじられた少数派の意見が記憶され、次の議論の時にそのことが想起されることが「矯正的正義」として重要。

      デモクラシーは最悪の政体である。人類がこれまで経験してきたすべての政体を除くとするならば。
      ウィンストン・チャーチル



★参考テキスト
萩原能久「ラビリンスワールドの政治学」、日本評論社『法学セミナー』(全12回連載より「デモクラシーは最悪の政体である」)
A.d.トクヴィル『アメリカの民主政治』、講談社文庫
J.ダン『政治思想の未来』、みすず書房
C.B.マックファーソン『現代世界の民主主義』、岩波新書
C.B.マックファーソン『自由民主主義は生き残れるか』、岩波新書
樋口陽一『自由と国家』、岩波新書
ジェイ、マディソン、ハミルトン『ザ・フェデラリスト』、岩波文庫
J.=J.ルソー『社会契約論』、岩波文庫
千葉眞『デモクラシー』、思考のフロンティア・シリーズ、岩波書店
福田歓一『近代民主主義とその展望』、岩波新書
A.アーブラスター『民主主義』、昭和堂
A.D.リンゼイ『民主主義の本質』、未來社
G.セイバイン『デモクラシーの二つの伝統』、未來社
R.A.ダール『デモクラシーとは何か』、岩波書店


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