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政治学基礎 I(2004春学期)

【テーマ11:正戦論と人道的介入  国際公法秩序の基礎】


■正戦論 bellum justum

    正当化されうる戦争justified war
    × 正義の戦争
    × 「正義の戦争」としての聖戦:宗教戦争
    カソリックの正戦論 (アウグスティヌス~トマス・アクィナス)
    1.権限のある権威の命令      ・・・私的な武力行使の禁止
    2.正当かつ必然的な理由 justa causa・・・悪、害の矯正・救済
    3.正しい意図 recta intentio    ・・・勧善懲悪 (残忍な復讐や権力欲を戒める)
    4.適切な方法
      H. Grotius (1583-1645) 『戦争と平和の法』 1625
      「平和を保証するための戦争」justa causaの重視
      justa causaがあっても、戦争を行わない方がよいことが前提。
      ただ、戦争になっても、講和の実現を目的すべきであり、このことは抗戦双方にとって有利
      神にかわる自然法(自然法自体は神と関わりなくとも妥当)
      jus in belloの重視
      戦闘行為の緩和化・非人道性の削減
    正戦論の意義と問題
    意義: 戦争のゲーム化(ルール設定)として、無制限の拡大と残虐化に歯止め
    問題性
    1.ダブルスタンダード
    2.主権者の命令・・・国内体制、犠牲になる民衆を等閑視
    3.宗教的戒律(殺人の禁止)の棚上
    4.平時国際法と戦時国際法
    「窃盗を罰しながら、強盗を許容するような制度」(ハンス・ケルゼン)

■正戦論の検討:bellum jusutum の一般的基準
    1.戦争への正義(開戦法規) jus ad bellum
      1.正当理由justa causa
      2.戦争執行機関が合法的権威であること
      3.動機の正しさrecta intentio
      4.結果の善が戦争という手段の悪にまさる
      5.勝利への合理的見込み
      6.最後の手段
    2.戦争における正義(交戦法規) jus in bello
      1.比例の原則:なされた不正を正すのに必要以上の力を行使してはならない。
      2.区別の原則:非戦闘員を意図的に攻撃対象としてはならない。
      3.Double Effectの許容
      4.保護すべき財産:病院、科学・芸術・宗教・慈善用の建造物、史跡、文化財の攻撃禁止
      5.自然保護:「焦土作戦」の禁止
      6.禁止兵器
      7.強姦の禁止(戦時における文民保護)

■正戦論の破綻・変容
    戦争コントロールの破綻

戦争の暴力指標
世紀 12世紀 13世紀 14世紀 15世紀 16世紀 17世紀 18世紀 19世紀 20世紀
戦争強度 18 24 60 100 180 500 370 120 3080
出典:Quincy Wright, A Study of War, The University of Chicago Press (1942) p. 237


■正戦論の破綻・変容
    正戦論の破綻と言うよりもjus ad bellumの破綻(あらかじめ正当化理由を基準として定式化しておくことの無意味さの露呈)
         --> 正戦論のjus in bello化と「無差別戦争観」の成立
    「戦争状態」が生じた後にはじめて適用される法としての国際法とその充実
         例: 1949 ジュネーブ4条約
    「正・不正の判定ができないから、すべての戦争を正しいものとみなそう」
    20世紀における正戦論の部分的復活
      1.マルクス主義
      2.世界の警察アメリカ
      3.国連
    国連・・・基準としての国連憲章(戦争の「違法化」)=
    「正・不正の判定ができないから、すべての戦争を不正とみなそう」
    正戦は戦争が実定法(国連憲章)で禁止されてはじめて成り立つ。(禁止を破った戦争行為に対する「違法行為への制裁」が合法戦争としての「正戦」
    国連が許容する武力行使
    国連憲章は国際紛争の平和的解決を義務づけ(2条3項)、武力行使・威嚇を一般的に禁止(2条4項)
      国連憲章第二条
      三項
      すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
      四項
      すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
    1.国連が憲章違反として制裁を加える場合(国連の制裁)
    2.国連憲章で認められている(51条)「自衛権」(自衛と反撃)
      国連憲章第51条
      この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。
    集団的安全保障と集団的自衛権
    集団的安全保障・・・個別の敵を作らず、違反者に全加盟国一致団結のもと制裁を行う・・・国連体制-->問題としての「国連軍」
    集団的自衛権・・・同盟国への攻撃は自国への攻撃と同等とみなし反撃を行う・・・NATOなどの軍事同盟
      Article 5 of the North Atlantic Treaty (Washington D.C. 4 April 1949)
      The Parties agree that an armed attack against one or more of them in Europe or North America shall be considered an attack against them all and consequently they agree that, if such an armed attack occurs, each of them, in exercise of the right ofindividual or collective self-defence recognised by Article 51 of the Charter of the United Nations, will assist the Party or Parties so attacked by taking forthwith, individually and concert with the other Parties, such action as it deems necessary, including the use of armed force, to restore and maintain the security of the North Atlantic area.
    *もっとも国連の正戦論否定は、みずからを正戦の主体にすることで贖われた。

■人道的介入--不干渉原則と武力不使用原則のあいだ
    人道的介入

    1.座視できない他国内での人権蹂躙(supreme humanitarian emergency)に対して
    2.国家が単独、あるいは共同で
    3.国連の決定を経ずに
    4.行う武力介入

    これ以外のものは「広義の人道的介入」
    *しかしこれは憲章第二条四項にまっこうから抵触
      
    「人道」の国際法上の意味
    1945~6ニュールンベルク裁判:「平和に対する罪」に加えて、「人道に対する罪」
      「国際軍事裁判所憲章六条(c)」
      「民間人に対して、戦前または戦時中になされた殺人、絶滅、奴隷化、追放、その他の非人道的行為、もしくは、犯行がなされた国の国内法に違反するか否かにかかわりなく、(ニュールンベルク裁判所が)管轄する犯罪を行う為にまたはそれに関連してなされた、政治的・人道的・宗教的理由に基づく迫害」
    国連の無力さと希望
      常設国際刑事裁判所(ICC) 1998年に調印(2002年7月発効)
      1)大量虐殺   2)人道に対する罪   3)戦争犯罪  4)(侵略の罪)
      NGOの台頭

■世界内戦と人道的介入
    Global civil war (内政不干渉原則と介入の正当化)
    正義の実現(逸脱不可能な人権の擁護)?
    選択性
    恣意性(自己判断の正義)
    すべてを許容する魔法の杖(「対テロ戦争」)
    イデオロギーとしての「人道」(難民封じ込めのための介入)
    jus post bellumの登場
    軍事的リアリズムと平和主義のあいだで


★参考テキスト
萩原能久「ラビリンスワールドの政治学」、日本評論社『法学セミナー』(全12回連載より「最後に善は勝つ!」)
石田雄『平和の政治学』、岩波新書(絶版)
石田雄『平和・人権・福祉の政治学』、明石書店
筒井若水『戦争と法』東京大学出版会
C.D.ラミス『憲法と戦争』、晶文社
国際連合広報局『国際連合の基礎知識』世界の動き社
最上敏樹『国連システムを越えて』、岩波書店
最上敏樹『人道的介入』、岩波新書
Q.Wright, A Study of War, The University of Chicago Press.
P.C. Christopher, Just War Theory. Univ. of Massachusetts.
R.L.Phillips, War and Justice. Univ. of Oklahoma Press.
J.T. Johnson/G. Weigel Just War and the Golf War. Ethics and Public Policy Center.
J.B. Elshtain, Just War Theory. Basil Blackswell.


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